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寒くなってきました。気管支喘息の患者さんにとっては、気温が急に下がるこの時期は嫌な季節です。風邪やインフルエンザなどの感染症にかかったりするだけでなく、気温そのものの大きな低下が喘息発作を引き起こします。
ではどうして、気温がさがると喘息発作はおきるのでしょうか?
まず咳というのは、気管支をつくっている部分のひとつの平滑筋という筋肉が繰り返して収縮して内径が狭くなったりもとにもどったりを速い速度で起こすことでおきる現象です。
日本平滑筋学会雑誌 (Jap. J. Smooth Muscle Res. 7, 161-170, 1971) によると、
「たとえば、急速に温度を下げた場合、筋細胞膜の脱分極と自発放電頻度の増加が一過性に起こり、これに伴った強縮がみられる、」とあります。
注1)脱分極 ; 通常、細胞の内側は細胞の外側に対して、電位がマイナスの状態になっている。刺激などにより、細胞膜にあるイオンのチャンネルが開くとナトリウムイオン(+1のプラスの電気をもつ)や平滑筋の場合はカルシウムイオン(+2のプラスの電気をもつ)などが、細胞の外から内側に一度に大量に流入し細胞内が一気にプラスに傾く。この現象を脱分極という。この結果、筋肉細胞では収縮がおきる。
注2)自発放電 ; 自分で細胞膜のイオンチャンネルが開いて細胞が興奮すること。
注3)強縮 ; 高頻度の自発放電に由来した単一収縮の加重による強い収縮。(言い換えると、一個の平滑筋細胞が自分で興奮して収縮し、それら平滑筋細胞が同時にたくさん収縮して、結果的に強い全体的な平滑筋組織の収縮をおこす現象)
すなわち、冷気の刺激で、もともと気管支をつくっている平滑筋細胞は電気的に興奮して収縮する性質があるのです。
では実際、どのくらいの温度なら気管支の平滑筋は収縮するのでしょうか?
( Respir Phys 44, (3) , 311-323, 1981 ) によると、気管内温度が21℃と29℃で、気管支の平滑筋は優位に収縮しやすくなることがわかっています。
実際の気道内温度変化をしらべた研究をみてみましょう。
(日本呼吸器学会誌 40 (9), 738 – 743, 2002 ) によると、26℃の室内に置いたイヌの気管の中に管を入れ、4.5℃の冷気を吸入させたところ、気管内温度の最低値は29.7℃から25.7℃へ、最高値は34.5℃から33.5℃へと低下し、気管表面温度も31.1℃から30.5℃へ低下したが、いずれも低下の幅はわずかでした。
しかし、1回換気量が安静時の2~5倍に増加した場合、気道の温度低下率は急速に悪化することも示されています。喘息の咳がでるとき、これと同じような状況が発生し、気道内の温度低下がおき、気道攣縮が悪化することは推測されます。
またさらに ( Am J Respir Crit Care Med 151, 1011-1017, 1995 ) によると、 10℃もしくは13℃の冷気吸入で3分から10分で気道が収縮することがわかっています。
以上の結果より、急速に気温が低下したりすると気管支の平滑筋が収縮し結果として咳が出やすい状況となります。また寒い時期に、冷気を3分から10分以上吸入すると喘息の咳発作が誘発されやすくなります。また咳をすることで気道内の温度が大きく下がり、咳発作がますます悪化することが予想されるのです。